透析患者の妊娠・出産事情。知っておきたいリスクと対策とは?

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透析患者の妊娠

人工透析医療の進歩にともなって、透析患者の生活の質も次第に向上してきました。仕事や家庭と治療を両立させて、充実した生活を送っている透析患者も少なくありません。

しかし、まだ難しいとされていることもあります。そのひとつが妊娠・出産です。

透析患者の妊娠・出産は、一般的に考えられているほど困難なのでしょうか?妊娠の可能性から出産に至るまでのリスクなど、さまざまな面から改めて見ていきましょう。

透析患者の妊娠が難しい理由とあきらめなくてもよい理由

月経や妊娠に大きく関わっているのが、女性ホルモンの存在です。

女性ホルモンには大きく分けて2種類あります。ひとつは卵胞ホルモンと呼ばれる「エストロゲン」。もうひとつは黄体ホルモンと呼ばれる「プロゲステロン」です。

エストロゲンは、卵子を包む卵胞を育てると同時に子宮内膜を厚くし、妊娠の準備を整える女性ホルモンです。他にも自律神経のバランスを整えたり、新陳代謝を活発にするといった働きがあります。

プロゲステロンは排卵時に分泌量が上昇する女性ホルモンで、受精卵を子宮に着床しやすくする役割をもっています。妊娠した後は子宮の収縮を抑えて、妊娠状態を守る働きもあります。

長期にわたって人工透析を受けていると、エストロゲンの分泌量が少なくなる傾向があります。エストロゲンの分泌が減ると更年期症状が出るようになり、月経不順や排卵障害などが起こります。すると妊娠の確率も下がってしまうのです。

透析患者が流産する確率と出産数

月経不順や排卵障害になると、排卵時に多く分泌されるはずのプロゲステロンもバランスよく分泌できなくなります。プロゲステロンの分泌量が足りないと、運よく受精した受精卵があっても着床が難しくなります。

着床までこぎつけても、プロゲステロンが安定して分泌されていないと流産の危険があります。一説によると、透析患者が流産する確率は30~40%と、かなり高くなっています。

透析患者の妊娠から出産までには、そういった乗り越えなければいけないハードルがいくつもあります。そのため、どうしても健康な人よりも妊娠・出産の確率は低くなってしまいます。

しかし、決して妊娠・出産が不可能というわけではありません。実際に、20年以上も人工透析を受けていながら、無事に出産に至った透析患者の例もあります。

透析患者の妊娠・出産についての統計はとられていませんが、1996年に東京女子医大の医師から過去172例についての妊娠報告がありました。それから20年以上経っていることを考えると、妊娠・出産例は数千にのぼるといわれています。

つまり、透析治療を受けているからといって妊娠・出産を諦める必要はないのです。

妊婦

透析患者が出産するリスクと3つの対策

透析患者は健康な人に比べると、流産することが多いということはお話ししました。何とか無事に妊娠を継続できても、早産となる可能性も健康な人より多くなっています。

そういったリスクを少しでも引き下げるため、さまざまな面から体調管理を行っていかなければなりません。

まず、人工透析治療についてです。お腹の中にいる赤ちゃんは次第に育ってくるので、それに合わせてドライウェイトも変えていく必要があります。

妊娠前と同じドライウェイトで人工透析を続けていると、水分が足りなくなって「羊水過少」が起こることがあります。羊水過少になると、体内で赤ちゃんが育つことができません。場合によっては先天性の奇形となってしまうこともあります。

かといってドライウェイトを大きくしすぎると、今度は透析患者の心臓に負担がかかってしまいます。

さらに、羊水の量が多くなりすぎる「羊水過多」のリスクも。羊水過多になると、早産や陣痛が始まる前に破水してしまう「前期破水」などの危険があります。母体の負担も増して、動悸・息切れ・吐き気・嘔吐・浮腫といった症状が出ることもあります。

妊娠中の透析患者にとって適正なドライウェイトを決めるためには、人工透析治療を行っている内科医と産婦人科医が綿密に連携をとっていく必要があります。

1.リスクを抑えるには人工透析の回数が重要

透析患者は、いわゆる未熟児で出産することが多いという報告があります。その主な原因は尿毒素だと考えられています。

透析患者の体内から尿毒素を十分に取り除くためには、透析治療の時間や回数を多くするのが一番の対策です。

以前は1人の患者に対する人工透析の回数は、一律に定められていました。しかし、2008年に行われた診療報酬の改訂で、妊婦に対する透析回数の制限が撤廃されたのです。

これによって、妊娠中は週に何回でも人工透析を受けられるようになりました。透析患者自身の体調にもよりますが、赤ちゃんへの影響を極力抑えるためには週4~5回以上の透析治療が望ましいといわれています。

2.低血圧になると早産のリスクが高まる

透析患者の妊娠・出産では、約80%が早産になるといわれています。これは女性ホルモンであるプロゲステロンの分泌が関係していると考えられます。プロゲステロン不足による子宮の収縮を抑えるため、子宮収縮抑制薬が投与されます。

また、急激な低血圧も早産の原因のひとつです。短時間で効率よく透析治療をしようとすると、低血圧を起こすことがあります。そのため妊婦さんへの透析治療は時間をかけてゆっくりと行う必要があります。

3.妊娠高血圧症候群に注意

妊娠したことで血圧が高くなってしまう、妊娠高血圧症候群という病気があります。昔は妊娠中毒症と呼ばれていました。なぜ起こるのか原因ははっきりしていませんが、初産婦・糖尿病患者・甲状腺機能障害の人は発症しやすいといわれています。

妊娠高血圧症候群になると、赤ちゃんに酸素や栄養を送る胎盤が機能しなくなることがあります。すると赤ちゃんが十分に育たず、最悪の場合は死産となる可能性も出てきます。

妊娠高血圧症候群は合併症も多く、胎盤が子宮壁からはがれて大量出血を起こす「常位胎盤早期剥離」を起こすこともあります。他にも肝機能障害・肺水腫など、命に関わる病気につながることもあります。

対策としてはまず、食事管理で血圧を引き下げること。それでも高血圧が続く場合は、投薬も行われます

出産

妊娠中の透析患者の食事管理

体内の赤ちゃんが育つためには、母体が十分な栄養をバランスよく摂っていなければなりません。

しかし、透析治療を受けている患者には、さまざまな食事制限があります。透析患者が妊娠した場合、制限の範囲内で十分な栄養を摂取できるようさらに厳密な食事管理が必要になります。

妊娠中の栄養管理のポイントは3つあります。

  • 摂取カロリーを厳密に守る
  • カリウムやリンの摂取量はできる限り抑える
  • 塩分は1日5g程度に抑える

透析患者が妊娠中に摂取すべきカロリー量は、妊娠20週までとそれ以降で計算方法が変わってきます。20週目までは体重1kgに対して30Kcal、それ以降は体重1kgに対して35kcalで計算してみましょう。導き出された値が1日に摂取すべき総カロリー量です。

タンパク質の摂取量にも注意が必要

タンパク質の摂取量が多いと、人工透析で除去すべき尿毒素も増えてしまいます。しかし、体内の赤ちゃんを成長させるためには、タンパク質を摂らないわけにはいはきません。

妊娠中にどれくらいのタンパク質が必要なのかの目安は、妊娠20週までは体重1kgにつき1g、それ以降は体重1kgにつき1.2gです。その量を1日の食事で摂るようにしましょう。

塩分量は控えめに

透析患者は、塩分の摂取量にも制限があります。塩分を摂り過ぎると人工透析では排出しきれず、体内にナトリウムが溜まってしまいます。すると体内の水分量も上昇して、高血圧や浮腫などを引き起こしてしまうからです。

長年にわたって人工透析治療を受けている患者には、高血圧を発症している人も少なくありません。健康な人でも、妊娠時には高血圧になりやすい傾向があります。場合によっては妊娠高血圧症候群から合併症を引き起こし、命に関わる事態になることも。

透析患者が妊娠した場合は、通常よりもさらに塩分摂取量を抑えて血圧を低く安定させる必要があります。具体的には最大で1日5g程度。できれば1日3g程度に抑えることが望ましいとされています。

不足しがちなビタミンなどはサプリメントで補う

人工透析を受けていると、体に必要なビタミン類が不足しがちになります。食事制限のなかで十分なビタミンを摂ることが難しい場合は、サプリメントに頼るのもひとつの方法です。

妊娠中は、亜鉛や鉄などのミネラルも不足しがちです。ミネラルが不足すると貧血気味になり、早産のリスクが高まってしまいます。こちらもサプリメントなどを上手に使って摂るようにしましょう。かかりつけ医師に相談すると、鉄剤などを処方してくれる場合もあります。

自分の体調や栄養状態を正確に把握することが、体調管理の第一歩です。妊娠中の食事管理は独断で進めず、かかりつけ医師に相談しながら進めていきましょう。

妊娠

透析患者は帝王切開にするべき?

これまでに紹介したように、透析患者の妊娠・出産には多くのリスクがあります。それを乗り越えて出産に至るのですから、そのころには母体の負担もピークに達していると考えていいでしょう。

出産は母体にとっても、非常に負担の大きい作業です。そのため透析患者の出産は、母体への負担の少ない帝王切開にするべきと考える医師もいます。でも、決して自然分娩が不可能なわけではありません。

出産までの健康管理が順調で人工透析も十分な回数を受けられているのなら、健康な人と同じように自然分娩ができます。

妊娠中の透析患者を積極的に受け入れている病院では、妊娠20週前後から入院を勧めることが多くなっています。体調や食事の管理をすべて病院に任せられるので、無理なく自然分娩できる可能性も高くなります。

健康管理が順調でも逆子などで帝王切開になってしまうこともありますが、すべての透析患者が帝王切開で出産するわけではありません。

まとめ

透析患者の中には、10~20代の若い女性もいます。人工透析治療を受けていることで、日常生活のさまざまな面で制約を感じていると思います。でも、妊娠・出産は決して不可能ではありません。

もちろん、ここでに紹介したように透析患者ならではのリスクもたくさんあります。リスクを少しでも引き下げるためには、人工透析治療を行っている内科医と産婦人科医が連携して臨まなければなりません。妊娠した透析患者のストレスを経験するためには、家族の理解や協力も不可欠です。

そういった条件をすべてそろえるのは困難かもしれません。でも、あきらめずにチャレンジする意味はあるはずです。

将来的に妊娠・出産を考えている透析患者は、まずはかかりつけ医師に相談してみてください。医師の指導の下で時間をかけて準備を整えることが、妊娠・出産の可能性をさらに引き上げてくれるはずです。

必ず主治医の先生にご相談ください。

東京新橋透析クリニック
田端駅前クリニック

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